前編ではハザードマップの話をしました。ハザードマップで「浸水被害が起きそうな場所」はわかっても過去に「浸水被害が起きた場所」はわからない。しかし、実際に不動産を探している人にとっては「浸水被害が起きた場所」の方が大切ではないでしょうか?
大阪市では、ハザードマップとは別に浸水実績図が公開されています。
ハザードマップでは、川に近いところが浸水危険性が高い等の一定の傾向が掴めますが、等高線の描かれた地図を見るような感じです。なので、浸水可能性の高いエリアがあったとしても、それが広範囲にわたっていると「そうはいっても大丈夫なんだろうなぁ・・」「まさかこれだけ全てが水没することもないだろう・・」となんとなく安心してしまいがちです。ですが、浸水実績図はそうではありません。災害のリアルを(少なくとも筆者は)感じます。生々しい・・。
例えば大阪(梅田)が含まれる北区。平成26年度~令和3年度の期間で浸水実績なし。ですが、これだけで「北区は水害に強い」とは言えません。平成16年度~平成25年度のマップでは40個以上の小さな円で浸水実績のある場所がマークされています。まさにその場所で浸水したわけで、地図を頼りに現地に行くこともできます。さらに遡り平成元年度~平成15年度では11ヶ所しかありません。この傾向が他の区でも当てはまるかと言えばそうでもない。北区が0、43、11で平成16年度~平成25年度の浸水実績が圧倒的に多いのに対し天王寺区では2、13、60。最近10年はどちらも被害は少ないですが、それ以前は時期によって被害を受けたエリアの箇所が大きく異なります。ハザードマップよりも地域特性が掴みやすい。
東京都も区市町村水害データが公開されています。こちらは大阪市とは違いマップではなく表。いつどこ(丁目まで記載)でどのような浸水被害(床下、床上、半壊、全壊等)があったかが一覧表になっています。ざっと見た中では中央区が一番被害実績が少なく平成12年7月4日のみ。反対に多かったのは世田谷区。1ページ50行程ある表が全部で15ページ分。最後の記載は令和元年ですが、それ以前はほぼ毎年どこかで浸水が起きています。
仲介の際にはハザードマップの説明が義務付けられています。ですので説明するのは当たり前ですが、お客様が本当に望んでいる情報は「ハザードマップ」で示される「将来起きるかもしれない危険」よりも「過去に起きた被害」。
大きな河川が氾濫した場合の浸水エリアはかなり広範囲になります。当該エリアでの災害が近時にあり記憶に残っている場合(例えば京都で言えば嵐山周辺や福知山市内での洪水)は別として、そうでない場合はあまりに広いエリアを指されそこに対象となる不動産が含まれていても「まあ大丈夫だろう・・」となってしまいがちです。また、そのような災害は起きる確率が低い(実際にハザードマップでの説明で「1000年に一度発生する規模」などと書かれている)ので過度に気にすることはないという捉え方もあります。
それに対して、実際に起きた水害が発生した場所がわかれば、それが対象不動産のある場所であれば具体的にどう対処すれば良いのか?もしくは対処できないのか?がわかります。対象不動産の近くでも「この高低差なら問題ない」と考えられることもあるでしょうし、少し離れていても「もう少し雨が長引いていたらここも危なかった」と想像できる場合もあります。1000年に一度の大雨よりは想像しやすい。
また、ハザードマップを示すことが義務となっていますが、それを示すことと過去の浸水実績等を示すことは全く別の話。重要事項説明では過去に起きた自然災害等があれば当然説明する必要があります。売主が「知らない」といっているからといって告知書に「災害等の発生:無し(ヒアリング先:売主)」書くだけでは危うい。もし購入後に過去の浸水実績等がわかった場合はトラブルになります。役所調査でわかるようなレベルであればいくら売主が知らなかったといっても、仲介業者の調査漏れと判断されます。
重要事項説明書作成の際は、お客様の気持ちに立っての調査が必要です。
手間を惜しまず役所調査、周辺ヒアリング。
『天災は忘れた頃にやって来る』とは昔からよく言われる言葉。